2016年3月25日(金)

「冒険の森へ」編集者の私的解説 vol.31
夢野久作「瓶詰の地獄」

 

Glass bottle with letter in the sea concept

  名も知らぬ遠い国からどんぶらこと流れついたのが椰子の実だったら、詩ができる。
  桃だったら童話になる。
  瓶だったら、どうなるか。
  冒険物語の始まりである。なぜならば、瓶の中から古びて濡れてかろうじて部分的解読可能な手紙が出てくるはずだからだ。
  さらに細工をこらすと、えいやらこと船の甲板に釣り上げられて暴れる大鮫の胃袋から瓶が出てきたりする。瓶の中身は、行方不明になって久しいグランド船長のSOSの手紙。かくして、船長を捜索する冒険が始まるのである。
これは、またジュール・ヴェルヌの「ダンカン号のぼうけん」の冒頭だ。この本が思い出深いのは、私が初めて、自分の意志で買ってもらった本だからである。
  偕成社の「小学校低学年向け・しょうねんしょうじょせかいのぶんがく」の一冊であった。
  瓶の中には手紙あり、というのは、私にとっては、刷り込みといっていいであろう。
  「ダンカン号のぼうけん」は「グランド船長の子供たち」の児童向けの翻案である。
  さて、瓶の中から救助を求める手紙が出てきて、さあ大冒険の始まりだあ、と思わせておいて、するりとかわしたのがこの「瓶詰の地獄」である。ヴェルヌは明治時代には主要作品は翻訳されていたから、夢野少年も「グランド船長」は読んでいて、私と同じ刷り込みがされていたかもしれない。
  で、自分が実作しならこうなる、という成果を十全に見せてくれた。
  鮮やかなものである。