2016年11月17日(木)

「冒険の森へ」編集者の私的解説 vol.53
中薗英助「外人部隊を追え」

 

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  スパイ、というと誰でもがドライマティーニ片手に、無期限殺人許可証を携帯し、敵味方限らず女性を男性フェロモンで恍惚とさせ、悪い奴を殴って蹴って射殺するという、あのジェームス・ボンドを想起するであろう。
  しかし、実際は、映画とはずいぶんちがう。
  作家サマセット・モーム。女性探検家イザベラ・バード。メジャーリーガーのベーブ・ルース。「西遊記」のモデルの玄奘三蔵。
  みんな、スパイなのである。
  何かやろうとするが、資金が足りない。すると足りないカネを出してやろうじゃないか、という紳士が出現する。条件は行った国のレポートを書くこと。その紳士が実は「国家」とつながっているわけで、立派なスパイが誕生する。
  ベーブ・ルースは日本に親善試合をしに来た時に、宿舎のホテルの屋上で、早朝カメラを持って東京の街なみを撮影しているところを目撃されている。
  三蔵法師は、国禁を破り天竺で正しい仏教を学んで帰国した時に、日記をいったん没収されている。唐が西方を侵略するのに必要だったからである。であるから、玄奘の「大唐西域記」の前半には欠落と見られる箇所がある。
  さて、そのスパイの小説だが、日本には伝統がない。長い間、私は日本スパイ小説の濫觴は結城昌治「ゴメスの名はゴメス」だと思っていた。しかし、逢坂剛編集委員の指摘で、中薗英助こそが、その第一号だということを知った。
  作品は「密航定期便」。
  読んでみたら、すばらしいではないですか。
  もし、もう少しの抒情性があれば、船戸与一をはるかに先行して中薗氏の名が記憶されたことであろう。
  彼の短編を収録させていただくことは、本集の義務にして名誉である。